授業・プロジェクトの種類: 学部授業

卒業設計発表会(2019年度)&吉原賞選考会議レポート

横浜国立大学建築学科では、毎年開催する卒業設計発表会と吉原賞*選考会議を、一般に公開して実施しています(*その年の最優秀卒業設計に授与される賞)。

一人ひとりのプレゼンテーションに対する質疑応答では、教員たちと学生の対話から、新たな学びが生まれました。特に今年の卒業設計作品は、教員たちが口をそろえて「質が高かった」と評する内容に。

学部4年間の集大成となる卒業設計発表会と、それに続く吉原賞選考会の様子をレポートします。

日時:2020年1月28日(火)10時~18時30分
会場:横浜国立大学メディアホール

卒業設計発表会の様子

2019(令和元)年度の卒業設計発表会では、全22名の4年生がプレゼンテーションを行いました。分野で分けると「建築デザイン(AD)」が19名、「建築理論(AT)」が2名、「都市環境(UE)」が1名です。

発表会では一人5分間のプレゼンテーションの後、10分間でクリティークの教員たちとの質疑応答を行います。会場には都市やエリアの建築模型と、図面やパース、スケッチなどのパネルを展示。

ほぼ予定どおりのスケジュールで発表は進みました。会場となったメディアホールのステージを左右に分け、右側の発表者が終わったら、すぐに左側で次の発表者がプレゼンテーションをはじめ、その間に右側の発表者が模型、パネルを撤去し、次の発表者が模型とパネルのセッティングを行う、といった流れで進行します。

発表者にはそれぞれ数名の下級生がヘルプで加わり、模型と展示の設営と撤去に参加します。そのチームワークもみごと。下級生たちは模型やパネルづくりから関わっており、受賞などに絡んだ際にはメンバーみんなでねぎらい合う一幕も。

会場右側のスペースでプレゼンテーションする学生。模型と展示のまわりを教員が囲みます。

 

教員と学生の豊かなコミュニケーション

本学の卒業設計発表会の特色のひとつが、指導教員だけでなく、常勤・非常勤問わず基本的にはすべての教員がクリティークとして参加するところです。「建築理論」「都市環境」「構造工学」「建築デザイン」、それぞれの分野の専門家から多角的なフィードバックを得られる環境があります。そのため教員によって着眼点やコメント、評価もさまざま。学生にとっても視野が広がり、学びの多い時間になりました。

教員からのフィードバックを受ける学生。学生と近い距離感でコメントしていきます。

教員からは「今年の発表は、図面やパネルの意図が明快で、レジュメの内容も充実している」といったフィードバックが目立ちました。卒業設計として6ヶ月間取り組んできた、思考のプロセスがみっちり反映された学生たちのプレゼンテーション。批評する側の熱量も自然と上がり、密度の濃いやり取りが続きました。

ある設計作品に対しては「建築はマテリアリズムです。物にどう置き換えるかという努力が、建築をつくるということ」といった本質的な指摘が投げかけられ、また別の設計作品に対しては「想定する都市のイメージが、イメージのレベルで終わっているのではないか。もっと辛抱強く設計していく必要があります」といった厳しい意見も。

卒業設計における課題は、学生たちにとって関わるスパンの長いテーマです。「個人の興味をいかに深めていけるかが、大事なポイントになってきます」というアドバイスもありました。今年は面白い主題が多かったというコメントもあり、「卒業設計で見つけたテーマを、大学院でも引き続き深めていってほしい」と学生たちの今後にも期待が込められました。

 

街に働きかける建築を提案する卒業設計

建築だけで勝負するのではなく、「街に対して具体的に働きかけることで街全体を機能させる視点があったのは良かった」という言葉に象徴されるとおり、特に今年の卒業設計には、既存の街をじっくり考察し「発想の転換で課題を解決する」アイデアが多かったようです。以下に、今年評価の高かったいくつかの設計作品の概要をご紹介しましょう。

・郊外住宅におけるバス路線を問い直す設計。各住宅が「バス停を所有する」ことで、街の中のプライベートとパブリックの構成を一変し、人をつなぐための空間を生み出す。

・土砂災害や河川氾濫の危険がある場所における根本的な土地利用の問題に対し、都市計画的アプローチで、既存店舗を災害拠点兼人々の居場所として再生する設計。

・丘陵住宅地の頂上に広場をつくり、それを地域の低速交通化の拠点とする設計。高齢者が多く暮らす斜面地で、小さな乗り物と生身の身体を主役にし、丘の居住圏を育む。

・社会に開かれた学びの場として、街をつくるように学校をつくる設計。図工室や運動場といった学校の機能を地域に開き、学校でありながら街の一部でもあることを目指す。

いずれも何か一つの建築を設計するのではなく、街全体を対象として扱い、都市計画にも近いビジョンを提案していることが分かります。

街に対して建築がどう働きかけるのか、ビジョンを反映した模型をプレゼンテーションする学生。

本学の建築学科では、1~3年生は研究室に所属しません。3年間は4つの領域「建築理論」「都市環境」「構造工学」「建築デザイン」での学びをとおして建築に対する考え方を身に付け、4年次にようやく研究室に所属し、設計か論文の卒業研究に取り組みます。このような教育のプロセスによって身体化された、建築を考えるときに都市を起点とする考え方が、卒業設計にも反映されていたようです。

自らが住居としていた学生寮の留学生会館を対象とした設計。質疑応答もかっ達に。

教員からは、普段の学びの成果が実感されたという声も多くありました。「空間は人の生活に、日常的に関わるものです。そして地域性や社会的な側面ももちろん絡んできます。そういったことを含めて設計しようと伝えてきましたが、それぞれの設計にその視点を感じました」。

今年度はゼミのやり方を変え、毎週本を読むことを課したという教員は、思考の過程がアウトプットに結び付いたと語りました。「学生時代には本を読み、そこから思考することが重要なのだと改めて感じています。それぞれの発表に、ここまできたかと感銘を受けました」。

また「全体としては、計画の密度が高い設計が多かった。やり切れていない部分があった人もいると思いますが、質の面では一人ひとりに大きな差はなかったと思います。課題に対して踏み込んでいたのが良かったです」という評価もあり、学生たちにとっても手ごたえを得た発表会になりました。

 

吉原賞選考会議の様子

午前10時から17時ごろまで計22名の発表を終えたあと、会場転換をしていよいよ吉原賞選考会議が始まりました。発表へのクリティークと同様、選考会にももちろん非常勤・常勤を含めた全教員が参加します。

総勢20名の教員が一堂に会する会議。国内外で活躍する建築のプロフェッショナルが集います。

選考のプロセスは、1回目の投票で一人3票を投じ、票の多かった5名の学生を対象として最終投票を実施。2回目の投票では、各教員が最優秀と次点を選び、その集計にもとづいて吉原賞が決定しました。栄えある受賞者は「頂上広場が街暮らしのビジョンを映す」を設計した小野正也さんでした。前述した、丘陵住宅の頂上に広場をつくり、それを地域の低速交通化の拠点とする設計作品です。

受賞のスピーチでは、志を同じくし、切磋琢磨してきた「同期のみんな」に感謝の気持ちを伝えた小野さん。「家を建てるだけが建築家の仕事ではない、それだけではだめだということを学ぶことができました」と4年間の学びを総括しました。

同級生への感謝を語る小野さん。学生同士の信頼関係が垣間見えました。
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止になった横浜国立大学卒業設計作品展に代わり、一部学生が自主的に学内で模型展示を行いました(2020年3月22日撮影)。
小野正也さん「頂上広場が街暮らしのビジョンを映す」の模型展示の様子。
小野正也さん「頂上広場が街暮らしのビジョンを映す」の模型展示の様子。

学部4年間の集大成となる卒業設計の発表。教育的な側面では教員から妥協のないコメントが飛び交いましたが、会を振り返ると「すばらしかった、感動を覚えた」という声が多く寄せられたのが印象に残りました。

「こんなに感動した卒業設計は何年ぶりだろう。それぐらい皆さんすばらしかったです。学外にも推薦したいと思える良い設計が集まった会になりました」。「この機会に社会にあるさまざまな問題が発見され、皆さんのプレゼンテーションを聞いて未来が見えてくるように感じました」。このような評価と、学生たちのこれからへの期待とともに、卒業設計発表の長い1日が締めくくられました。

取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介

建築をどう学ぶ? 教育プログラムの特色と学びのプロセス

藤岡泰寛[都市科学部建築学科 准教授(建築計画)]×藤原徹平[都市科学部建築学科 准教授(建築デザイン)]
インタビュー

本学の建築学科では、建築をどのように学ぶことができるのでしょうか? その教育プログラムの特色と、学生たちの学びのプロセスを、都市科学部建築学科の藤岡泰寛准教授と藤原徹平准教授へのインタビューからひもときます。

建築学科の特色

――建築学科の大きな特色は、4つの領域「AT:建築理論」「UE:都市環境」「SE:建築工学」「AD:建築デザイン」を柱とした教育プログラムですね。学生たちは4年間でどのように建築を学んでいくのでしょうか?

藤原徹平: 1年生は教養課程を経ず、専門課程の建築学科へ入学するため、建築学科の学びの中で「教養」を学習する側面がありますね。1年次は数学や哲学、歴史や芸術などの分野を深める授業もあるので、自分の思想を組み立て直す時間になります。

建築学科を志望した1年生は、建築への興味はあるけれど、どのような研究がしたいか具体的なイメージを持つことは難しい状態にあります。そのためまずは社会の中で建築がどのような役割を担うかを考え、そのうえで建築をどう作るか、都市をどう作るかを考える教育プログラムを構成しているんです。

具体的には1~3年生の間は研究室には所属せず、座学や設計課題をとおして4つの領域を何度も行き来しながら順繰りに学んでいくことで、建築に対する考え方を身に付けます。そして自分の研究分野を3年次の終わりに決めて、4年次にようやく研究室に所属し、設計か論文の卒業研究に取り組む流れになっています。

教育の4つの領域
・AT:建築理論
・UE:都市環境
・SE:構造工学
・AD:建築デザイン

AT×UE×SE×AD――領域ごとの学びの射程

――一つひとつの領域で学ぶことと、その狙いを教えてください。

AT:建築理論

藤岡泰寛:建築理論では建築の「歴史」と「計画」を扱います。「歴史」では、建築そのものの歴史に加えて、建築をとおして見えてくる文明論や都市論なども扱いますね。昔の建築や都市を読み解くことを通じて、現代と未来の在りようを考えるという意味で、非常に重要な分野です。

一方建築の「計画」には、施設計画、住居計画といったテーマがあります。建築計画とは、構成や形式の類型「ビルディング・タイプ」を扱う分野です。現代において評価が定まっていないものを扱い、社会の変化に対応しながらビルディング・タイプの存在意義を問い直し、新しいあり方を考えていきます。歴史と計画は、相互に補完し合う関係性にありますね。

藤岡泰寛准教授

UE:都市環境

藤原:暑さ寒さや温度、音、光、熱などの環境を建築の中で考えていく分野です。本来、建築には人間にとって快適な環境を作る役割があります。建築環境工学は古くから重要な分野ですが、本学にはそれを建築単体ではなく、都市全体で考える特色があります。

建築をいかに高性能にしても、都市全体がヒートアイランド現象で暑くなっていたら意味がありません。災害に際しても同じです。建築そのものが免震構造で強くなったとしても、都市計画が機能していなければ、役割を果たすことは難しい。

建築を考えるときに都市を起点とする考え方は、AD系の大学院にあたる「Y-GSA」にも通底しています。

SE:構造工学

藤原:日本は世界有数の地震大国なので、どのように建物を作ると、どのように建物が壊れるか、どのように作ればそれがより安全なのかを、基礎から徹底して学ぶ必要があります。本学では専門的な知識を技術まで高めていく、充実した教育プログラムを組んでいます。

都市を勉強する人、建築を勉強する人、いずれにも言えることですが、建築の基本である構造を理解していないと、日本で建築を考える人になることはできません。

藤原徹平准教授

AD:建築デザイン

藤原:建築・都市のデザインを扱うのがADです。絵が得意な人や、デザインの造形力がある人が建築デザインに向いていると考えられがちですが、決してそんなことはありません。

理論や歴史も大事ですが、都市環境はもちろん、構造に関する知識も必要です。そのどれが欠けても、建築を考えたり作ったりする人にはなることができない。これが本学の建築教育の基本的な考え方です。逆にAT・UE・SEという3つの分野を学べば、自然と建築を作ることができるようになると我々は考えています。

4年間の学びのプロセス

――学生たちの4年間の学びは、どのようなプロセスを経て成熟していくのでしょうか?

藤原:1年次は、建築の言葉や考え方、価値観を知る授業が多く組まれています。「絵画彫塑」や「数学」、「図学」といった、建築を考えるうえで必要な基礎にじっくり取り組みます。

2年次以降は「都市や環境」といった領域や、歴史の中でも更に古い歴史へと視野を広げ、思考の領域を物理的に広げていきます。ADの設計課題もスタートします。はじめは家具、次に住宅、そして地域の拠点となる施設といった感じで、段階ごとに対象とする社会が大きくなっていきますね。

藤岡:設計課題について言えば、住宅の課題に取り組んでいる時期に、住宅に関係する講義が組まれていたり、施設系の課題の時期にはそれにつながる講義があったりします。設計課題の内容と講義が、少しずつリンクするような教育プログラムとなるように工夫しています。

藤原:学生にとっては、座学で学んだことが設計課題に使えそうだな、といった気付きがあるかもしれないし、ないかもしれません。「学び」は遅れてやってくることがあります。目の前の課題に取り組んでいるときには分からなくても、少し時間が経つと気付きがやってくるようなプログラム設計を目指しています。

さらに設計課題ではAD以外の研究分野の先生が指導に加わるシステムがあります。設計をしているときに、理論や、歴史など多様な側面のプロフェッショナルが関わるのも、学生にとっては大きいことですね。

藤岡:座学についていうと、建築学は長い歴史の中で経験則として発展してきた側面もあり、ただ内容を覚えるだけでは本当の意味で身につけることは難しい。ですが同時に設計課題を通じてトライアルアンドエラーを追体験することができれば、その理論や法則がなぜ大事にされているのかを理解することができます。座学と設計のリンクには、さまざまな狙いがありますよね。

藤原:このように3年次までは4つの領域を横断しながら、立体的だったり、時間差があったりする学びの中で、建築とは何かを理解してもらいます。そして4年次には研究室に所属して、卒業研究に取り組むというプロセスです。

卒業後の進路

――建築学科の卒業生の進路は、大学院への進学が約7割を占めていますね。

藤原:約7割なので、高いですね。大学院の修了後は、建築に関わる何らかの専門家として生きていく人が多いです。設計に携わる人はその中の2~3割で、それ以外は現場での施工や、ゼネコンや設計事務所の中で設計以外の仕事に就いたり、官公庁やハウスメーカー、研究所へ就職したりと、さまざまな進路があります。

ですが卒業生・修了生が必ずしも建築の専門家になるとは限らず、モノづくりに関わる人も居れば、編集者になる人も居ます。アメリカの大学では、建築の大学院を出ても多くの人が建築デザインに携わらない時代になっているそうです。Googleのようなソーシャルデザインをはじめ、物理的な建築にこだわらず、都市生活をどうデザインするかという視点で動いている。

建築は情報量が非常に多い分野なので、膨大な情報量を整理する力が問われます。建築の分野に進まなくても、これまで学んだことを活かして別の分野のプロフェッショナルになることもできる。建築実務につくことだけが、学生にとっての将来ではないと考えています。

対話をとおして価値観を育み、集中して学べる環境がある

――本学では「建築教育」を常にアップデートし続けているそうですね。

藤岡:横浜国大には「設計製図運営委員会」という教員の集まりがあります。横浜国大に関わる先生たちが、教授、准教授、常勤、非常勤といった立場の分け隔てなく、どの学年で、どういう設計課題を出し、どういう座学が望ましいかを全員で話し合う組織です。

藤原:「設計製図運営委員会」がスタートして約10年が経ちますが、毎年ここでの議論に基づいて課題や座学が少しずつ変わっています。うまく機能する場合もあるし、難しい場合もありますが、とにかく教育プログラムを考え、更新し続けていることが大きな特徴ですよね。とても教育熱心な学校です。

藤岡:本学の建築学科は「少人数で多様」です。1学年定員70名の少人数制で、かなりきめ細かく指導をしています。留学生もいるし、編入試験で入学する学生もいる、AO入試で入ってくる学生もいる。多様なバックグラウンドや個性をもった学生が居るので、他者と積極的にコミュニケーションを図ろうとする学生が伸びますね。他者と批評し合いながら自分なりの価値観を育てていける柔軟な学生が成長しているのではないでしょうか。

――緑に囲まれた広いキャンパスも、学生の学びを豊かなものにしています。

藤原:大らかな環境も、魅力の一つですね。学生は2年生になると、一人一台製図版が与えられますが、大学によっては全員には与えられず、朝早く登校した早いもの順に使う学校もあります。ここには競争しないと生き残れない雰囲気がないので、しっかりじっくり考えている人が、大きく伸びていきます。街と学校が物理的に離れているため、集中して没頭できる環境があるので、自ら学ぶことができる人に向いているかもしれません。

取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介

「社会デザイン・フューチャーセッション」授業レポート

2018年から開講し、今年で2年目となる「社会デザイン・フューチャーセッション」。これから社会に出て仕事に携わる学生にとって、将来のキャリアデザインを考えるヒントが詰まった授業です。

建築に関わる仕事の中で、面白い働き方や活動をしている人たちは、都市や社会をどのようにデザインしているのでしょうか? 今年は2日間の開催で計5名のゲストを招き、仕事に取り組むうえでの考え方や目指すもの、これまでのキャリアをどのように築いてきたかなど、リアルなお話を聞きました。その様子をレポートします。

「社会デザイン・フューチャーセッション」での学び

大学を卒業・修了したあと、建築に関わりながらどのように都市や社会をデザインしていくか? これからのキャリアを考えながらキャンパスライフを送る学生にとって、建築の現場で働く先輩たちのリアルな話が聞けるのは貴重な機会です。「社会デザイン・フューチャーセッション」では、第一線で働く人をゲストに招き、対話によって学生たちの能動的な思考を引き出します。本年度の講義の全体調整を担当したイスラーム建築・都市史研究を専門とする守田正志准教授に、この授業での狙いを聞きました。

守田正志 :建築の学びの中には、多岐に渡る分野があります。社会のあり様が急激に変化し、働き方も多様になっている時代だからこそ、できる限り多様なバリエーションを学生たちには提示したいと考えています。本授業では建築学科で教鞭を執る5つの専門分野(建築史、都市計画、建築設計、建築構造、建築構法・生産)の先生が、それぞれ1名ゲストを選びました。


今年の社会デザイン・フューチャーセッションに登壇したのは、以下のゲストの皆さまです。

・畔柳知宏(ジミクロ)
・坂田裕貴(Handi House Project)
・久山幸成(クライン ダイサム アーキテクツ)
・三渕卓(東急電鉄)
・宮田雄二郎(宮田構造設計事務所)
(五十音順、敬称略)

このうちHandi House Projectの坂田裕貴さんと、宮田構造設計事務所の宮田雄二郎さんの講義をピックアップし、その概要をご紹介しましょう。

 

フラットな関係性から建物を作る「Handi House Project」(坂田裕貴さん)

作るプロセスをオープンにした建築を手がける「Handi House Project」。立ち上げ当初に掲げたモットーは「妄想から打上げまで」でした。この言葉には、建物を構想する段階から打上げまでを「お金を出す人・作る人が一緒に過ごす」という思いが込められています。

Handi House Projectの坂田さんをゲストに招くことを決めたのは、建築構法計画・建築生産、コンバージョン・リノベーションなどのストック活用を専門とする江口亨准教授でした。

江口亨 :坂田さんは学生の皆さんに年齢も近く、僕らの感覚とは違うものを持っていらっしゃると思います。建物を作るとき、一般的には一番偉いのはお金を出す人で、その人が設計者と話をする。その下に下請けや孫請けの施工業者がいる上下関係が明確にあり、大きな建物を作る場合には縦の関係がどんどん強くなります。効率は良いですが、関わる人同士がフラットに話ができる関係は、そこにはありません。でもHandi House Projectさんは、この縦の関係を真横にしました。これが、これからの時代の建築ではないかと僕は感じています。


縦割りの分業を前提とした建築の現場では、誰が何を作っているのか、誰に何のお金をいくら払ったか、お施主さんが把握することはできません。一方で集合住宅のような大きな規模になると、作る側もユーザーとの距離が離れてしまい、どのように使われるかが分かりません。このような見えないこと・分からないことが、ストレスやクレームを生みやすくしているのではないか――。もともとアトリエ系の建築事務所、ゼネコンの現場監督、内装デザイン事務所に勤めていたHandi House Projectの立ち上げメンバー4人が、現場で感じたこのような問題意識からスタートしたのが、横並びのチームでプロセスを見える化する今のスタイルでした。2011年に個人事業主のユニットとして活動をスタートしたHandi House Projectは、昨年法人化し、活動の幅をさらに広げています。

彼らの特徴はフラットな関係性だけにとどまりません。設計も施工も自分たちで手がけるからこそできる、お施主さんを巻き込みながら作るワークショップ型の施工は、他にはなかなか類を見ない手法です。主には住宅や個人店舗を手がけていますが、お施主さんとの対話から、施工段階でも当初の図面をリクエストに応じて変更することや、別の可能性を提案することもあると言います。

坂田裕貴:例えばご主人が映像監督で、奥さんがアンティークショップのオーナーをやられている家を手がけたことがあります。そのときは古材や家具などが自然と集まってきたり、ご主人が自主的に部屋の扉を作られたりと、設計者が図面上で計画しても絶対に生まれ得ない、素敵な家になりました。

作るプロセスを共有しているからこそ、お施主さんのキャラクターを家に反映することができます。住んでいる人と作る人の即興性が生まれ、面白い家になる。僕らは、家はエンターテインメントだと捉えています。家づくりは『ライブ』です。記憶にも残るし、楽しい経験にもなるから、その家に子どもがいたら、子どもがものづくりに興味を持つきっかけにもなる。建築にとっても、明るい未来につながるのではないかと思っています。


木造研究を極めた建築構造技術者、宮田雄二郎さん(宮田構造設計事務所)

建物の骨組みを設計する、建築構造技術者として活躍する宮田さん。横浜国立大学の卒業生でもあり、大学を出ると構造設計事務所のプラス・ワンに就職し、数多くの構造設計を手がけました。その中で「木造」との出合いがあり、30代では東京大学で木造研究に打ち込みながら、構造設計に携わります。その後、自ら設計事務所を立ち上げ、現在は法政大学でも教鞭を執っています。

そんな宮田さんを招いたのは、二重膜構造、空間構造による構造システムの設計と解析を専門とする河端昌也准教授です。

河端昌也 :今、木造は改めて注目されていますが、宮田さんが研究を始めた15年前は全然そういう雰囲気はありませんでした。僕も話を聞いて『なぜ木造なんだろう』と思った記憶があります。そのような中で木造を学び、やがて独立されました。

建築を作るためには、構造がとても大事です。かっこいい建築を作るためには、安全に、そして法規的に作らなければなりません。そのためにはどうしたら良いかを考えるのが、構造設計です。建物がどのように壊れるか、実験による裏付けも必要で、宮田さんはそれを繰り返して今に至っておられる方です。


20代に所属していたプラス・ワンでは「建築家のデザインを実現するために、どのように技術的に解決するかをひたすら考えていた」宮田さん。「必ず実現できる方法はあるから、できないとは言うな」と教えられたそうです。その一方で、すべてをデザイン優先で作るのではなく、コストや安全性、施工性、社会的な責任などを天秤にかけたときの「判断」のあり方もここで学びました。つんのめってしまいそうに見える建物の実現例や、「柱をとにかく細く」という建築家の要望への対応など、紹介されたいくつもの事例から、構造設計者の苦労と技術が垣間見られました。

構造家には、構造計算だけでなく、接合方法などのディテールを一つひとつ考案する能力も問われます。木造の構造設計を担当したとき、木造のディテールについては参考になる資料がほとんど存在しないことに宮田さんは気付いたと言います。

宮田雄二郎:木造が相当難しいという現実に直面したことが、きっかけの一つになりましたね。そしてもう一つのきっかけが、コンクリートの建物を設計したときに、膨大な実験をもとに自分で書いた論文を見ながら、技術提案をしていたメーカーの担当者に出会ったことでした。

普通の構造設計者は出版された本を読み込み、そこでの知識で設計をするのですが、その担当者は自ら実験をして得た経験によって設計をしていたんです。衝撃を受けました。この二つのできごとをきっかけに、30歳でプラス・ワンを退職して、木造の研究に進むことにしました。


5名のゲストとの対話を終えて、最後に守田准教授が今年の「社会デザイン・フューチャーセッション」をこう締めくくりました。

守田 :5名のゲストのお話を聞いて、いわゆる『縦割りの社会』が崩れてきているのを感じました。第一線で活躍している人は皆、自分で手を動かし、仕事を作っていることが、共通して見えてきましたね。これからの社会で問われているのは、いかに既存の枠組みにとらわれず、新たな仕事を生み出していくかということかもしれません。


取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介

「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」授業レポート

本学の建築学科では、1年次から始まる専門課程の学びの中で、数学や哲学、歴史や芸術などの「教養」を学習する側面があります。中でも対象物を捉える基本的なデッサン力と、立体的な造形力を身に付ける「絵画・彫塑・基礎デザイン」は、選択科目でありながら毎年ほぼ全員が受講している授業です。

「絵画・彫塑・基礎デザイン」では、建築に携わるうえで必要不可欠な、人の身体を捉える視点を養います。どのように「人」を観察し、新たな視点でクローズアップしていくか? 学生たちの学びをレポートします。

「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」はどんな授業?

1年次の春学期と秋学期、それぞれに別の内容がプログラムされている「絵画・彫塑・基礎デザイン」の授業。まずは春学期に開講している「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」の内容をご紹介しましょう。

春学期「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」
・絵画(デッサン)
・彫塑(人物像制作)

半期をとおして、紙に鉛筆で描く自画像のデッサンと、粘土を素材に友人の頭部像を制作する彫塑に取り組みます。ガイダンスを含め1日90分×2コマ、計7日間の制作時間がデッサンと彫塑のそれぞれに設けられ、じっくりと制作ができるプログラム。

本授業を担当する高畑一彰先生は、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了し、彫刻家として活動するアーティストです。また本学だけでなく、美術予備校や美術大学などでも教鞭を執っています。

友人像の細部、髪の毛を作り上げていくとき、「へら」で髪の毛を描いてしまうとただの線になってしまいます。髪の毛のボリューム感を、粘土で形づくるようにしていこうと高畑先生はアドバイスします。

「美術や彫刻の基礎的なスキルがなくても受講できるのか?」と気になる方がいるかもしれませんが、心配は要りません。建築学科に本授業がある目的は、上手な絵の描き方、彫刻のつくり方のスキルを身に付けることではないからです。

また一人ひとりの学生が、授業中に先生から直接アドバイスをもらいながら作るため、基礎的な造形力を補いながら作品づくりに取り組むことができます。はじめは戸惑いながら制作をしていた学生も、先生のアドバイスや仲間の様子に刺激を受けながら、自分なりの視点を見つけて制作に打ち込んでいきます。

 

2つの課題、絵画(デッサン)と彫塑(人物像制作)の狙い

毎年春学期にプログラムされている、自画像を描く絵画(デッサン)と、友人の頭部像を粘土で制作する彫塑(人物像制作)の課題。それぞれの狙いを、高畑先生に聞きました。

髪の毛の後ろに隠れている耳の後ろの骨、頭蓋骨の終わりの部分を意識することで、首と頭のつながりが見えてくるとアドバイスをする高畑先生。

高畑:デッサンは絵画を描くときの基本ですが、毎年この授業では学生に自分の姿、自画像を描いてもらっています。学校に入って間もない学生たちは、希望や期待、不安がごちゃ混ぜにあるような状態です。この授業では、単に何かを描くのではなく、そのときの自分の姿を見直し、自分の心情を表すことに挑戦してもらいたいと考えています。学生たちは、見慣れている自分の顔を改めて客観的に見る。そんなものの見方を身につけることを目指しています。

さらに友人像を粘土で作る際には、二人一組になって向き合い、何もないところから粘土の塊で友人の頭部を立ち上げていきます。少人数制の本学では、学生たちは毎日のように顔を合わせているでしょう。そんな友人の顔を改めて彫刻にするとき、いつもと同じ見方では作ることができません。前だけでなく横や後ろなど、いくつもの角度から友人の顔を捉え、普段は気付いていなかったことにも、気付く必要があるでしょう。そして友人の顔を改めて捉えなおしながら、制作していかなければなりません。この授業では、新たな視点でものごとを捉える“目”を養ってもらいます。これまでには見えていなかったことに、気付いてもらえたらと考えています」

顔の「骨格」を観察し、形を捉えて粘土を取ったり付けたりしていきます。制作途中の像は近くで見るのではなく、少し離れて距離を取り、見直してみることが大切です。

 

自分にとっての「等身大」の大きさを探る

粘土の彫刻は、芯となる木の棒「芯棒」を立てただけの何もない状態からスタートします。課せられた課題は、「等身大のリアルな大きさ」を目指して作ること。

学生たちが制作した友人像を見ていると、人によって頭部の大きさがまちまちで、小さい頭もあれば大きい頭もあったのが印象に残りました。そこには学生たちの「個性」が表れているのでしょうか。彫刻作りは、芯棒に粘土をつけながら、自分にとっての「等身大」の大きさを見つけていく作業になると高畑先生は話します。

高畑:『等身大』といっても、その人なりの等身大の大きさがあると思うんです。あまり制約を設けると面白くないので、厳密に同じ寸法にするということではなく、ある程度自由度をもって制作してもらうようにしています。

 

ガイダンスを含めた計7回ずつの制作を終えると、最後に講評会を行います。自画像と彫塑を合わせて実施する講評会では、学生たちがそれぞれの作品をどのような気持ちで制作したか、またどのようなところに注意をしたか、自分なりのポイントをコメントします。それに対して高畑先生がコメントを返し、場合によっては学生同士で質問や意見を交わすことも。作り上げた達成感を得られる時間です。

2コマ3時間の授業中、おしゃべりをしながらリラックスした雰囲気の中でも、学生たちは高い集中力を保って制作に打ち込んでいます。

「絵画・彫塑・基礎デザインⅡ」で取り組むこと 

本学の建築学科は1学年70名の少人数制です。選択科目でありながらほぼ全員が履修する「絵画・彫塑・基礎デザイン」は、1学年をA・B・C・Dの4グループに分け、1グループ16名前後で行っています。そして春学期を受講した学生は、ほぼそのまま秋学期の授業を受講するため、グループもシャッフルすることなく持ち上がるそうです。

続いて秋学期の「絵画・彫塑・基礎デザインⅡ」の様子も、少しだけご紹介しましょう。

秋学期「絵画・彫塑・基礎デザインⅡ」
・テーマ「知覚する椅子」

秋学期の「絵画・彫塑・基礎デザイン」では、自身が座ることを前提とした椅子を作ることが課題になります。導入として椅子を彫刻するためのドローイングを行い、木材や身のまわりにある日常的な素材など、各自で素材を用意して制作に取り組む授業です。

椅子を制作するプロセスでは、デザインをして、加工をして、最終的に自分で座ることができる椅子を作るため、構造的な課題が出てきます。ここではデザインを大切にしながらも、構造に伴ってどのような材料で制作に取り組むかを考えます。

高畑先生は「知覚する椅子」の課題をとおして、学生たちにどのような学びを期待しているのでしょうか。

高畑:私たちの生活の中にある椅子は、直接的に身体に関わるものですよね。座ることによって、身体にどんな作用が起こるのかを考えてもらうことが、この授業における大きなテーマだと思っています。

春学期のデッサンや彫塑にも『人』に対して向き合うテーマがあり、後半の椅子でもやはり『人』に関わることが大きなテーマになっています。一年をとおして、結局同じようなテーマに取り組んでいるのかもしれませんね。

 

1年次の学生たちが、これからどんな分野に進んでいくかは分かりません。将来、何らかの形で建築に携わるとき、人間の身体に建築がどのように作用するかを考えることは、欠かすことのできない視点になるでしょう。自己や他者に向き合う姿勢が求められる「絵画・彫塑・基礎デザイン」は、このような視点を身に付けることを目的とした授業です。

取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介

地球環境計画演習:ひとやすみマップ

平成25年度地球環境計画演習(秋学期:工学部3年次~)課題「YNUエコキャンパスプロジェクト」のなかで「常盤台キャンパス ひとやすみマップ」を作成しました。
屋外のベンチ・椅子の場所の地図と、各所の日当たりや視界の広がり、おすすめコメントなどを掲載しています。マップを見た方々の好みや目的から「心地よい」と思える場所を選んでもらえるようにとの思いで作られています。屋外でのひとやすみに、是非ご利用下さい。
PDFファイル:ひとやすみマップ

建築学概論・演習(MOOM)

1年生の導入教育として、全員でMOOMと呼ばれる仮設構造物を組み立てます。MOOM(モーム) とは東京理科大学の小嶋一浩研究室で考案された新しい膜構造の仮設建造物です。YGSAスタッフや学生のサポートにより、組み立てから解体までを体験します。