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キャンパスデザイン グランドレベルプロジェクト

2022年の春からY-GSAキャンパスデザイン研究室のプロジェクトとして建築学棟1階エントランスをギャラリーに改修するプロジェクトが始動した。

横浜国立大学のキャンパスデザインは、それぞれの研究が豊かに探究され、他に開き交わる、計画的な学びの構成に基づいている。これまで、Y-GSAキャンパスデザイン研究室では、パーゴラの建設や経済学等・都市科学部講義棟の改修のように、ストリートと建築の関係を更新してきた。

本プロジェクトにおいても、GL(グランドレベル)を改修することにより、内外が連続し、建物内の空間や行動がメインストリートに表出することを狙う。学内の人はもちろん、大学を訪れた地域の人もメインストリートを歩くことで、それぞれの建物でどのような活動研究を行っているのかが分かるようになり、学部間や大学内外の区分を超えた新たな活動が生まれることを期待する。

メインストリートに面するさまざまな分野の研究棟の1階を調査した。多くの学生が出入りする講義等と違い、研究棟では特定の人物が建物内で活動・研究を行っている。しかし、それぞれの研究室でどのようなことをしているかは不透明で、縦に積層され閉鎖的である。

そこで、各階で起きている研究活動の発表の場をみんなが通る1階エントランス部分にしつらえることを考えた。

初めに、現状の1階エントランスを分析した。自転車やゴミ箱、チラシが雑多に置かれ、空間を暗く見せていたり、レリーフ下の窪みには使われていないモニターやAEDがつけられていたため、この空間を活用するにはそれらの移動や新しい収納方法を考える必要が出てきた。

次に、施工も見据えた実測調査を行い、図面化と模型製作を行った。調査や模型製作を進めていく中で外部のテラスの可能性を感じたため、外に開かれたギャラリーにするためにもテラスとの連続性を考えるようになった。

2022年春学期の間は全体の構成を考えた。外との連続性を作るために、南側の開口を掃き出しの窓にする案や、テラスに出るためのステップを設ける案、内外で使える什器を制作する案などが出された。

 

最終的には、建築学棟の壁を再評価し、壁面の改修の歴史を更新していく案に決まった。ギャラリー空間を考えながらも、エントランスとしての機能も確保するため、常設に限らず仮設の展示方法などを考えることになった。

2022年夏休みの期間には現場にて1:1のモックアップを制作して細部のスタディを行い、構造や寸法、色や仕上げなど実際の施工に向けて検討を重ねた。既存の壁に足していく改修は経年変化で歪んだ壁などの微差を考えなければいけないため、均等な割り付けや寸法ではないこともあり、どのように歪みを回収するかの検討が難航した。

また、説明書がなくても使えるようなわかりやすい展示方法と、建築学棟エントランスにあうデザイン性を同時に満たすような案にするために、ディティールのスタディを何度も行った。

2022年9月末に行われたバーティカルレビューにてモックアップの成果を発表した。エントランス空間に雑多に置かれた物を片付け、明るい空間にすることで奥の人にエントランスの可能性を見せることができた。全体の構成案はこの時点で決定したため、秋学期の間は照明や材料、細部の検討を進めた。

2023年の2月から施工を開始した。施工には工房にあるCNCだけでなく、金属加工を機械工場で行うなど、大学内の設備を中心に使わせていただいた。普段さわり慣れていない素材、大きさに苦労しながら施工を進め、塗装まで自分たちで行った。

1.窓

エントランス南側の窓は展示利用時以外に採光や通風を邪魔しないように、取り外し可能なデザイン。

上部にレールをつけてワイヤーを張れるようにし、下部にはプレゼンボードの大きさに合わせたスケールのピッチで穴を開け、綺麗な感覚でしっかりと張れるようになっている。合わせて、ワイヤーにかける展示用具もアルミのCチャンネルを使って制作した。

2.レリーフ下

エントランス正面の壁面はレリーフの下の窪みに斜めの板を設置し、板にステンレスの板を埋め込むことでマグネットでの展示を可能にし、テープや画鋲などで板が劣化することを防いでいる。

3.折戸展示台

レクチャーゼミ室との間には、折戸に設けられた穴を利用し、展示利用時以外は取り外せるデザイン。

折戸2枚に対して1つの板を渡し、板についた棒を折戸の穴に通し、裏側から止めることで表にボードの立てかけ展示を可能にしている。この面はもともとただの通路であり暗かったため、天井照明も追加でつけている。

4.チラシ置き

エントランスホールのあちこちに分散して置かれていたチラシを1ヶ所にまとめ、学生が多く使うエレベータホールの壁面を情報の壁として設えた。チラシが劣化しないよう平置きで、角度をつけることでエレベーターを待つ人からもチラシが見えるようにした。また、風でチラシが飛ぶのを防ぎ綺麗に整頓するためにゴム紐で抑えるようにした。

5.収納扉

パイプスペースの部分は暗く、湿度が高いため汚れやすく、見栄えが悪かった。他の部分の展示に使う取り外し可能な部材などを収納する場所として、扉の設置を行った。

6.マグネット展示壁

マグネット壁は従来からギャラリースペースとして機能していたが、壁がかたく画鋲が刺しづらいため、テープが使われてしまい、跡がのこるなどの問題があった。壁全面にボンデ鋼板をはり、白く塗装しマグネット壁へと改修した。合わせてチラシ棚上部の壁面にも板金を貼り付けた。

 

7.AED,消火器

レリーフ下にあったAEDを改修により移動することになったため、エレベーター横にあった消化器とともに収納できるスペースを制作した。

2023年の4月からは実際に展示空間としての利用が始まった。展示の文化が学生の中に根付くように運営に関わりながら、各学年や研究室とともに展示を構成していった。以前よりも展示のスペースが広がったことによって大きな模型の展示が可能になり、伸び伸びとした展示空間になった。

6月に行われたオープンキャンパスでは、テラスも利用し、外部に開かれた展示を行った。

 

計画から施工、運営まで学生の手で行えたことはキャンパスデザインのあるべき姿だと思うとともに、見守り支えて下さった皆様にはこの場を借りて感謝申し上げます。

建築学棟の1階ギャラリーがこれから先、多くの学生に利用され、他の研究棟にも波及し、キャンパス全体が賑わいをうむきっかけになればと思います。

 

Y-GSAキャンパスデザイン研究室

大月菜子、香川唯、榊真希、清水康平、照井甲人、野中美奈、皆川しずく、HONG SEUNGWOO

 

担当教員

南俊允(助教)

松田彩(設計助手)

 

協力

伊東鷹介 (横浜国立大学OB)

五十嵐新一 (横浜国立大学OB)

 

文:清水康平、皆川しずく

羽沢横浜国大駅周辺を都市科学する~大型都市模型制作プロジェクト~

2022年の夏の終わりごろから横浜国立大学の都市科学部プロジェクトとして羽沢横浜国大駅(以下羽沢駅)と横浜国大キャンパス(以下横国)を含む広域の都市模型の制作計画がスタートした。これは羽沢駅の旅客事業開業に伴い、今後羽沢駅・地域と横国との連携や研究等が活発化されるのを見こし、まずはお互いの地理的コンテクストを客観的に理解するためのツールとしての大型模型の制作である。

<2019年に開業した羽沢横浜国大駅>

プロジェクトの座組としては、まず建築学科AT系の大野敏教授が計画全体の主導となり、そして私、建築家の原田雄次(2011年卒)が模型制作に関する制作指揮を行い、アシスタントとしてY-GSAのM1の藤澤太郎君と前本哲志君が制作の実働部隊として参加した。さらには学部3年生の授業とも連携することで、総勢20名弱の学生にも参加いただいた。

製作期間は2022年10月から2023年3月末までの6か月間である。私自身一つの模型制作にこれほど多くの時間を費やすことも初めての経験であった。まずはどの範囲で、そしてどの縮尺で模型を作るべきかという議論が始まった。

<地図による平面的な模型範囲の検討>

羽沢駅と大学キャンパスが含まれることは必須とし、その上でそれぞれが影響を及ぼす範囲を平面的に、そして立体的に探る作業である。最終的には縮尺1:500、横2,4m x 縦2,7mの範囲を6つの模型範囲に分割して作ることにした。

<3Dモデルによる立体的な模型範囲の検討>

この模型範囲の決定にクリティカルな影響を及ぼしたのは何の素材で模型を作るかということだ。私はこの大学周辺の豊かな地形の高低差、畑や大学の木々といった緑、そして大地の雰囲気を表現したかった。模型の雰囲気はもちろんのこと、作りやすさや材料の調達方法・規格などを踏まえていくつかの方法を検討した結果、コルクシートをコンタ状に積んで地形を表現することにした。また上物の住宅等のボリュームは木のブロックを用いることで、全体として都市模型の抽象度を保ちながらも素材感のある模型を目指した。

<コルクシートと木ブロックによる部分スタディ模型>

模型制作がスタートしてすぐに、A1コルクシートのべ300枚を積み重ねる量の模型を私とアシスタント含めた3人で完成さるのは難しいと悟り、大野先生・守田先生・菅野先生にご協力いただき学部3年生のAT系演習として模型制作に参加してもらうことになった。ただし作業として模型作りに参加するのではなく、制作範囲を理解するためのフィールドワークし、各自興味を持った箇所についてスケッチをもととした考察を行い、また模型上の重要要素である樹木や畑の表現についても積極的に提案してもらうことで、身体的な都市体験とそれを客体化する模型のシンクロ性を高めることを図った。

<羽沢駅周辺のフィールドワーク(畑)>

<大野先生が研究されている釜台地区の古民家“花三郎の家”の見学>

<模型範囲のエリアごとの特徴を議論する>

<フィールドワークを通して発見したことのスケッチ>

<学生が提案した樹木や畑の模型表現のスタディ>

<模型制作含めたAT系演習の中間発表>

製作の手順として、まずは図面のコンタラインに合わせてひたすらコルクシートをカットしていく。

範囲ごとでコルクのカットが完了したところからボンドで接着していく。

コルクの接着が乾燥したら、道になる部分以外をマスキングし、ニススプレーを吹いて道を着色していく。

さらに小口をやすり掛けし、模型範囲同士の接続を調整する。

ここまでが模型のベースとなる地形部分の制作である。

次に上物の制作に移る。まずはこの地域及び大学キャンパスの特徴ともいえる豊かな樹木を作っていく。作り方は直径10~20mmの発泡スチロールの球体に虫ピンを刺し、そこに粒状のスポンジを接着する。模型範囲が広大なだけに大量の樹木が必要となり、最終的には約1,500本の樹木を制作した。

<航空写真に樹木を仮配置する>

次に来るのは住宅等の小ボリューム群の制作である。まずはそれぞの模型範囲のボリュームの大小及び高さをリサーチする。こうしてみると戸建て住宅と大学キャンパスの校舎の大きさの差が顕著である。

<模型範囲⑤のボリューム高さのプロット>

大学キャンパスを除く大部分は戸建ての住宅地であり、これらは大きさ毎に木棒を金太郎飴的に卓上丸ノコでカットしていくことで量産体制を整えた。最終的な木片ボリュームの数はおよそ1,800個に及ぶ。

また大学の校舎やマンション等の大規模のボリュームは薄い航空べニアを用い、角をトメ加工することで、作りやすさと木のボリュームのマッシブな印象を損なわないような作り方とした。

これらを配置していくとコンタの大地が徐々に街になっていく。

模型制作の作業量の多さから途中幾度か「終わらないんじゃないか…」と不安に思うこともあったが、ヘルプの学生やTAのふたりの頑張りによって何とか3月末の完成に間に合わせることができた。

こうして模型を俯瞰してみると、大学キャンパスの緑の多さ、羽沢貨物駅の地形的特徴、バス通りと住宅地の関係など、この大学に長く携わっていながらも気付いていなかったこの地域の特性をいくつも発見することができる。今後この模型が実習や研究に活用され、模型制作に携わった人以上にいろんな人の手が加わっていけば、それはこの模型にとってきっと幸せなことである。

 

制作協力学生

藤澤太郎、前本哲史

石井優歩、石川泰成、石鍋あき乃、今村澪、岡崎礼佳、勝部涼亮、櫻井美里、貞松知之、篠沢耕太、庄司友貴、泉田佑太、高橋彩音、田中莉聖、陳宇澤、照井甲人、寺田智之、中川貴裕、馬鳥智貴、廣瀬竜太、三嶌大介、藤本梨沙、前田大貴、柳澤修也、渡邊航介

文:原田雄次

写真:原田雄次

「GREEN BUILDING」ブックレット

建築学棟は2009年3月にリニューアルされました。建築学教室では、その改修において盛り込まれた技術を、エネルギー消費特性や振動のモニタリングなど様々な角度から分析・評価しています。その成果を小冊子「GREEN BUILDING」にまとめました。グリーンビルとひとことで言っても、様々な側面を持つことが目次を見るだけで分かります。ページを少しずつめくりながら、グリーンビルについて考えを深めてみてください。
PDFファイル「GB_booklet2011_web」